※写真出展:メガソーラービジネス
福島県富岡町の町民が主体となって推進している、大規模太陽光発電所の説明会を聞いてきました。
開催概要
開催日:2016/07/23
セミナータイトル:「富岡復興ソーラーから自然エネルギー100%福島へ ~住民主導による福島・富岡の復興と創造~」
主催:一般社団法人 富岡復興ソーラー
会場:いい会議室(東新宿)
第一部
開会あいさつ
富岡復興ソーラーに協力しているISEP(環境エネルギー政策研究所)所長、飯田哲也さんから、開会のあいさつです。以下引用になります。
植民地型(※)のメガソーラーではなく、地域の町民による発電事業という点が本事業の肝。
※地域外からやってきた巨大資本が利益を吸い上げてしまい、発電所の立地である地元へ利益が還元されない形態を指す。
住民主導の太陽光発電所としては、日本でも最大規模。
東京電力から降ってくる賠償金ではなく、自分たちの力で生み出す事業収益によって、町民が自ら動き出そうという意思の表れ。
※引用ここまで。
基調講演「住民主導・町民出資による福島富岡復興ソーラーを応援する」
再生エネルギーなどの脱原発関連事業に積極的に融資している「城南信用金庫」の相談役、吉原毅さんの講演です。以下引用です。
2015年末、現地(富岡町)で河合弁護士(※)、ISEP飯田さん、富岡復興ソーラー遠藤さんと現地住民との打合せを重ねた。
※河合弘之弁護士。脱原発活動を展開。飯舘村民救済弁護団共同代表。
富岡町は福島第一原発の事故の影響で住めなくなっている(※)。
※「帰還困難区域」、居住制限区域、避難指示解除準備区域が混在している。参考:福島民友
「富岡ソーラー」は、耕作ができない田畑で太陽光発電をおこない、収益を町民に還元しようという事業。発電出力は約30MW。大規模な発電所。
ちなみに、大企業が手掛けているメガソーラー(※)には240MWという巨大なものもある。
※発電容量がMW(=1000kW)を超えるような大規模な太陽光発電所。
再生エネルギーの利点
太陽光発電の良い点は、脱原発につながるということ。世界を見渡せば、福島第一原発事故以来、原発は増えていない(※)。原発よりも、風力・太陽光が増えている。
※:「日本原子力産業協会」の資料によれば、「原発は減っていない」。いっぽう、世界原子力産業現状報告によれば「世界の発電量における原子力の割合は(中略)減少している」とのこと。
世界で再生エネルギーが増えているのは、再生エネルギーに経済的メリットがあるから。
日本のソーラーパネルは外国と比較して異常に高い(※)。
※1kwあたり設備導入費は、日本では34.6万円、ドイツでは18.8万円(2014年時点。自然エネルギー財団。)
太陽光発電は20年たてば燃料費がタダになる。世界は国家戦略・エネルギー安全保障上、再生エネルギーを採用している。
福島第一原発の事故以来、原発の許認可手続きが複雑化した。コストは事故前の倍に増え、原発一基作るのに1兆円もかかってしまう。原発はそもそも粉飾決算。廃炉コストが勘定に入っていない。
日本には、ドイツの10倍の自然エネルギー資源がある。自然エネルギーが普及すれば、資源を巡る戦争もなくなるのではないか。戦争の原因は強欲な資本主義。
原発推進派の主張
とある講演会で経産省の課長は、「温暖化対策のため、CO2を減らさないといけない。再生エネルギーはまだまだ時間が掛かる。ウランは少量で大量の電力が生み出せるため、保管も容易。よって原発はやめられない。」と言っていた。
まるでアウシュビッツのアイヒマン(※)のよう。上から言われているから、そう言っているだけ。
※カール・アドルフ・アイヒマン。ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)の実務上の責任者とされている。
原発推進派は、「自然エネルギーは頼りにならない」と必死に宣伝している。
電力会社は「関門海峡の送電線では電気を送れない」(?)とウソを言っている。
トモダチ作戦の被害者
米軍の空母「ロナルド・レーガン」を中心とした救援作業「トモダチ作戦」。
救援作業中に空母の兵士たちが被ばくした。空気や海水から被ばくしてしまった。
400人が健康障害を訴え、うち半数の200名が除隊した。7人が死亡した。粘膜からの出血。
小泉元・首相と一緒にサンディエゴに兵士を見舞いに行った。その様子はニュースで流れた。
福島第一の事故では、広島型原爆4000個分の放射能がまき散らされた。
ちなみに1GWの原発を一日動かすと、広島型原爆3個分と同等の放射能が発生する。一年だと約1000個分。さらに、燃料棒を通すと放射性物質の量は1億倍になる。
原発の危険性
ドイツでは岩塩層を掘って塩のトンネルを作り、そこに放射性廃棄物を埋めた。しかし、結局地下水が漏れ、ドラム缶が水浸しになってしまった。
フィンランドのオンカロ(※)でも、住民の反対運動が起こっている。
※10億年以上安定していると言われている地層の最終処分場。
地震列島である日本では、放射性物質の地層処分は不可能。かといって、地上に放射性物質を保管するとなると無限大にコストが掛かる。
もんじゅは非常に危険。液体ナトリウムで冷却しているが、爆発してしまったら日本は終わり。
現行の法律では、使用済み核燃料は資産という扱いになっているが、どう考えても負債。使用済み核燃料が資産から負債に切り替わったら、電力会社は全部つぶれる。
電力会社がつぶれても電気が使えなくなるわけではない。JAL(会社更生法)のように生き返る。
電力会社がつぶれて困るのは、電力会社に資金を出している金融機関と、電力会社の重役たち。
ソーラーシェアリングの可能性
ソーラーシェアリングは未来の希望。
千葉県の匝瑳市では既に実績がある。飯舘村でも計画している。
太陽光発電を始めるのにお金が掛かるのが、整地費用と架台設置費用。
農地で太陽光発電をするのであれば、整地費用は要らない。最初から平らな土地だから。
サイディングに使うようなガルバリウムで出来たパイプを組み合わせて、パネル設置台を作ることができる。農家が自作できる簡単な構造。
農作物には「光飽和点」という概念がある。農作物は一定量以上の光を浴びすぎてしまうと、収穫量が落ちてしまう。
ソーラーシェアリングをすることで日差しを3割減らすことができ、収穫量が3割増える。しかも、架台で日影ができるため、涼しく農作業ができる。
農家の最大の懸念点は現金収入が少ないということ。ソーラーシェアリングを行うことで現金収入も収穫量も増える。
匝瑳市では既に若い人たちのUターン、Iターンが始まっている。
農地1haで400kwの発電出力が確保できる。
※引用ここまで。
「240MWのメガソーラー」とは、GEなどが出資している「瀬戸内Kirei太陽光発電所」(230MW:2019年稼働予定)のことを言っているのかもしれません。(未確認)
「原子力村」「強欲資本主義」など、言葉の端々に極端な言葉も多く、主張が少々偏っているようにも聞こえました。
第二部「福島・富岡の復興と創造を町民で応援する」
事業概要および町民ファンドの説明です。
あいさつ
「富岡復興ソーラー」の代表理事、遠藤陽子さんによる講演です。以下引用。
私自身、避難中。
9万人もの福島県民が、原発事故から5年たった今でも避難生活を送っている。
石棺の話は許しがたい。
2000人が「震災関連死」で亡くなっている。
100人以上の子どもたちが甲状腺がんになっている。通常、甲状腺がんの発生率は200万人に一人。にもかかわらず、「原発とは無関連」とされている。
東北は自民党の勢力圏だが、先ほどの選挙(2016年7月参議院選挙)では、野党が各選挙区で一議席を取った。自民党への不満の証明。
発電所の話で、富岡町役場には何度も出向いた。しかし主体的な動きは見られなかった。
「自分でやるしかない」と思い、動き始めた。
元・社民党の議員、服部さんが発行していた「脱原発でやれる」という小冊子を読んだ。
ISEPの飯田さんに相談したところ、「周りの人たちも巻き込んでみてはどうか」という話に。
しかし、隣に住んでいた人も避難してしまって、居場所も分からないような状況。役所に相談に行っても、個人情報を盾に教えてくれない。結局、仮設住宅を訪問してつてを探り、自分で調べた。
日本ではすごいことが起こってしまった。
私たちは捨てられてしまった。
それでも生きていかなければいけない。
個々人の力は小さいけれども、この活動が全国に広がって行ってほしい。
政府に国民の力を見せるべき時ではないか。
この事業は儲けが目的ではない。
私たちの町が残るかどうかの瀬戸際に立っている。
「充分に除染されていれば町に戻りますか?」という調査に対し、「戻る」と答えた町民はたったの7%だった。
原発の汚染水はダダ漏れで、凍土壁なんてできっこない。
福島県民を含む何万人の人が今も被ばくしている。
※引用ここまで。
富岡復興ソーラー事業の概要
「福島富岡復興グリーンファンド」の職務執行者、小峯充史さんによる事業説明です。以下引用。
立地
ざっくりと地理的状況を説明すると、2016年現在、常磐線の東側が帰還困難区域、常磐線の西側が居住制限区域になっている。
発電所は、西側の居住制限区域に位置している。
なお、常磐線の復旧めどは2019年。
事業概要
- 事業用地:福島県双葉郡富岡町大字上手岡字高津戸、大字本岡字清水前
- 現況・面積:農業振興地区域内農用地(田)・約35万平方メートル
- 発電出力:太陽光モジュール出力33MW、PCS出力29.4MW
- 買取価格:32円/kWh
- 工事期間:2016年11月~2018年6月
- 運転期間:2018年6月~2038年6月
- 資金計画:大手金融機関を中心としたプロジェクトファイナンス、市民および全国の生協等からの出資
- 工事・保守:日立製作所
- 事業目的:脱原発社会の創造、原発事故被災住民の生活再建支援、次世代を担う住民の地域での生活自立支援
事業詳細
東京電力の補償は、事故から5年で切れてしまった。田畑は何も生み出さない土地になってしまったが、除草などの管理はお金が掛かる。
発電所の周辺には巨大な変電所「新福島変電所」がある。そこに接続する。
「株式会社さくらソーラー」という特別目的会社(SPC)を作り、その会社が金融機関からプロジェクト・ファイナンスという形式の融資を受ける。融資は最大で90億円。
資本金は8千万円を予定している。
ファンドの出資は最大で13億円を予定している。
発電事業による収益は、
- 町民支援事業
- 福島県の再生可能エネルギー復興推進協議会への負担金拠出
- 富岡町の再生エネルギー基金への出資
という形で地域に還元する。
町民支援策
富岡町には大きな病院やショッピングセンターなどがない。2017年には一部帰宅が許されるようになるかもしれないが、病院・商店等が再開する見込みはうすい。
南相馬やいわきなどの大都市は50km離れている。高齢者が車で通うには困難。
以上を踏まえ、送迎サービスを提供予定。
また、地域・町を復活させるためには農業の復活が欠かせない。ただ、現在は農業をできる状態ではない。
そこで、
- 放射能汚染のない農地の確保
- 農業機材貸与
- 農業技術研修の提供
これらを通じて、20年後の地域での農業再開につなげる。
※引用ここまで。
町民ファンド募集の概要
「自然エネルギー町民ファンド」の取締役事業部長、加藤秀生さんによるファンド説明です。
重要事項説明書に基づくリスクの説明、申込等に掛かる費用についての説明がありました。
質疑応答
質問1)融資が90億、出資が13億。融資割合が多い理由は?
融資の方が返済金利が低いため、事業効率の上では融資を増やした方がよい。
仮に出資金があまり集まらなかった場合を想定して、融資枠を多めに設定している。
質問2)工事・保守担当として日立を選んだ理由は?
「富岡復興ソーラー」は大規模事業であるため、運営力・リスク担保力の高い事業者を選んだ。
金融機関から信用担保力を求められたという背景もある。日立を名指しで挙げられた。
富岡復興ソーラーの遠藤さんや地権者にとっても苦渋の決断だった。
※日立は、福島第一原子力発電所の原子炉のメーカーでもあるため。
質問3)融資金額90億を単純に30MWで割り算すると、kW当たり30万円という費用。高いんじゃないか?
ご意見として伺います。
感想
配布資料を読んだ感想
金融商品として考えると、申込手数料5,000円、解約(譲渡)手数料5,000円は高いような気がしました。
ただし、このファンドはあくまでも、社会貢献が第一義です。通常の金融商品と同列に考えるべきではないでしょう。
配布資料には大量の紙が使われていました。事務手数料を削減する余地は大きいようにも感じました。
市民出資を幅広く呼び掛ける上では、紙媒体の資料をなくすわけにもいかないのでしょう。元本割れリスクなどを説明している重要事項説明書についても、電子ファイルでの配布が許可されていないのかもしれません。
ファンドの目標利回り2~4%は、32円/kwhのFIT(固定価格買取制度)を利用している割には低いように感じられました。
発電収益から地元への還元や運営費等を差し引くとなると、配当としてはこの辺りが限界なのかもしれません。
講演会を聞いた感想
多くの活動主体が登場してくるため、それぞれの法人がどのような役割を持っているのか、お金の流れがどのようになっているのか、理解が難しい印象を持ちました。
日立が運営に加わるということに対して、違和感を持っている参加者も多かったようです。
出資より融資の割合を増やすことで事業効率・利益率は高まります。
しかしその分、金融機関に事業の方向性を縛られてしまうというデメリットは残るようです。